カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
まっすぐ問いかけられて、即答できなかった。もう、こんな日は二度とない。センリさんとも、ここで別れれば再び会う機会はない。
帰りたくない。
家のせいにもお酒のせいにもしたくはなかった。これは、私の本心だ。
今まで、気持ちを殺してきた。自分を変えたいと願ってきた。
私はずっと探していたのかもしれない。支配的な両親の呪縛から逃れる瞬間を。
ダメだと分かっていても、止まれない。
「親の言いなりで見知らぬ男に一生を捧げる前に、自分の意思で、一夜限りの男に甘やかされてみる気はない?」
見上げると、綺麗な切れ長の目がこちらを見つめていた。心の中を察し、色っぽく薄い唇が弧を描く。
言葉はなかった。
背中に腕が回されて、抱き寄せられる。シャツ越しに硬い胸板を感じて心臓が脈打った。
「桃」
「センリ、さん」
あぁ、私は悪い女だ。
耳元で囁かれた自分の名前が、思考をとろけさせる魔法の呪文に聞こえる。この腕を振り解けない。
今夜だけ。顔も名前も知らない若旦那のものになる前の今だけは、この人の腕の中で甘い夢に溺れたい。
熱っぽい視線に貫かれ、どちらからともなく二度目の口づけを交わしたのだった。