カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


「あぁ、美澄さんのお客さまだったんですね。いつも名字で呼ぶから、すっかり下の名前を忘れていました。もしかして、彼女が噂の婚約者ですか?」

「そうだよ」

「へぇ。こんな美人、羨ましいなあ。結婚するって聞いた時、あの引く手数多の若旦那を射止めた女性がいるって、従業員の間でも騒ぎになったんですよ。どこで出会ったんです?長い間付き合っていたんですか?」

「こら、まだ仕事中だろ。プライベートを詮索するな」


 なんだか楽しそうだ。上司と部下の関係よりも仲が良さげなふたりを見つめていると、千里さんが苦笑する。


「ごめんね、そっちのけで話しちゃって。彼は研修時代から面倒を見ている後輩なんだ」

「初めまして、鳴海 柊一(なるみ しゅういち)です」


 朗らかな青年は二十四歳で、新卒で雇われてからずっと千里さんの元で指導を受けてきた人らしい。

 とても懐いているようで、若旦那を見上げる視線には尊敬と憧れの光が色濃く映った。


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