カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
やがて、何事もなかったかのような涼しい顔をした千里さんがやってきた。
鳴海くんに見送られ、ふたりでショッピングモールを歩きながらおずおずと尋ねる。
「ああいうのは、よくあるんですか」
「あぁ、呉服店にもたまに対応が難しいお客様が来るんだよ。見苦しいところを見せたね」
「いえ、すごくかっこよかったです。千里さんの印象が少し変わりました」
「本当?惚れた?」
「ほ、惚れてはいません」
「ははっ、残念」
絆されてはだめだ。この人は、本当か嘘かわからない冗談をすぐ言うんだから。
でも、知らなかった一面に気づけたのは、素直に良かったと思える。愛のない結婚だとしても、彼は思ったよりも悪い人じゃないみたい。
「桃ちゃん、ちゃんとお腹空かせてきた?」
「はい。さっきからペコペコで……って、その、“桃ちゃん”って呼ぶのやめてくれませんか」
「うん?嫌?」
「バーでのセンリさんを思い出すので、なんとなく気まずいです」
「ふぅん、なるほどね。じゃあ、桃。今日は美味しいものを食べに連れていくから、楽しみにしててね」
あたり前のように呼び捨てで呼んだ彼は、にこりとして車のカギを見せたのだった。