カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
まだ、私は彼についてなにも知らない。きっと、向こうも反応が面白くてからかっているだけ。
でも、少しなら歩み寄ってもいいだろうか。
心を許して絆される気はないけれど、仮にも妻になる以上は、彼をもっと知ってみたい。
それから他愛のない会話が続いた。お見合いの日以降、初めてゆっくり過ごしたふたりきりの時間は、流れるのが早い。
案外楽しいひとときを過ごせたと心が温かく感じていた矢先、事件は起こったのだ。
「人身事故?」
「はい。最寄りから出ている電車が全て運転を見合わせているみたいです」
食事を終えて駅まで送ってもらう途中、スマートフォンの画面に表示された真っ赤な遅延情報に頭を悩まされていた。
どうやら、再開の見込みはたっていないらしい。時刻は午後十一時を回っており、駅で待っていたら終電を逃す可能性がある。
「家まで送ろうか」
「それは申し訳ないです。車だとここから結構かかるので千里さんの帰宅時間が遅くなってしまいますし、ロータリーでタクシーを拾います」
事故が起こってしまったのなら仕方がない。でも、深夜料金は響くなぁ。
予期せぬ出費にしょんぼりしていると、低く甘い声が耳に届いた。
「じゃあ、泊まれば。俺の家」
「へっ?」