カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
構えていなかったため、つい変な声が出る。
そんな考えは頭の中に一ミリもなかった。突然の誘いに顔が熱くなる私に対し、ハンドルを握る彼は意識すらしていない表情をしている。
「家には、俺と食事をするって伝えてあるんだろ?」
「は、はい。夕飯はいらないって連絡をしたので」
「それなら問題ないよ。夫婦なるんだし、言い訳なんて要らないでしょう」
四ヶ月前、ベリーヒルズビレッジのホテルに泊まった夜は、優子の妹にまで協力をしてもらって根回しをした。
ふたりの仲は変わっていないのに、こんな簡単に外泊が許される関係になったんだ。
でも、彼の腕の中にいたいと思えたあの日とは違う。気持ちのない人には体を許したくはないし、愛してほしい願望もない。
もしも今夜、“そういうこと”になったら。
「警戒してる?」
ズバリと言い当てられて言葉に詰まった。
緊張と羞恥で動揺するこちらをよそに、くすくすと笑っている。
「取って食ったりしないよ。抱いてほしいなら別だけど」
「そっ、そんなねだるわけないじゃないですか」
「はは。わかっているよ。心配しないで。君にその気がないなら手は出さないから。それじゃあ、このまま家に向かおうか」
チカチカとウィンカーを出して進路を変える黒のセダン。もはやお泊まりは決定事項らしい。急に緊張感が高まった。
こうして、反論する余地もなく、ふたりを乗せた車は夜道を走り抜けていったのだった。