カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 完全に生活拠点を移した私は、家に帰ってきてからも、千里さんから着物の種類や色合いの説明、季節に合わせた柄などを教えてもらっている。マンツーマンの勉強会だ。


「そうだ。着物をひとりで身につけられるようにならないとね」


 着付けの指導をされるときはたまにちょっかいを出されるので心臓が休まらなかったが、毎日練習に付き合ってくれたおかげで、最近はなんとか様になってきた。


「ええと、着物の柄は……鶴が長寿や夫婦円満、扇が明るい未来、松竹梅が……」

「桃。もう日付が変わるよ。そろそろおやすみ」

「うぅん……あと少しだけ」


 居間で暗記をしていると、廊下から千里さんが顔を出す。柱に寄りかかって首を傾ける彼は苦笑していた。

 立派な女将になるためには時間がいくらあっても足りない。実践経験を積めない帰宅後には、ひたすら知識を詰め込むしかないのだ。

 もう入浴も歯磨きも終えて寝る準備は整えてある。就寝まであと三十分は粘りたい。

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