カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
今、下の名前で呼んだ?
仲が良さそうな空気感に動揺する。
すると、その気配を察したらしい千里さんが穏やかに告げた。
「紹介するよ。彼女は染森美冬。茶道の家元の娘で、昔からの知り合いなんだ」
染森という名字は、店の名簿にも載っていた。美澄屋の上顧客だ。
だが、ただの常連さんといった雰囲気ではない。
こちらを向いてにこりとした彼女は、優雅な所作でお辞儀をする。
「はじめまして、染森です。あなたが婚約者のお嬢さん?」
「はい、天沢 桃と申します」
「可愛らしい方ね。千里にはもったいないわ」
「だろ?いい子だよ。すごく」
さらりと答えた彼に、美冬さんはくすくすと顔を綻ばせている。
聞けば、ふたりは幼なじみで、家同士の付き合いも長いらしい。
茶道の家元の娘なら、着物に慣れ親しんで育って来たのだろう。ふたりの間に、私よりもはるかに濃密な歴史があることが、ひしひしと伝わってきた。