カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
「ごめんね、鳴海くん。開店前なのに」
「いえいえ、気にしないでください。はい。これが預かった着物です」
渡されたのは、三つ紋の入った鮮やかな赤い訪問着で、帯も全通柄の豪華な袋帯だった。ガラス製の帯留めも入っている。
まだ知識が不十分だが、とても高そうということはわかる。まさか、ここまで上質な着物を用意してくれていたとは思わなかった。
更衣室でさっそく袖を通すと、千里さんに手ほどきを受けたためなんとか着付けは進められたが、袋帯が難しい。
生地が厚くボリュームがあるため、何度やっても中心がズレたり、着崩れるのだ。
まずい。どうしよう。
「桃さん。結構かかってますけど、大丈夫ですか?」
ついたての向こうから鳴海くんの声が聞こえた。
「女性スタッフが来てないんで、俺で良ければ着付けしますけど」
一瞬ドキリとしたが、時計を見ると思ったよりも時間が過ぎている。もともと美澄屋に寄る予定ではなかったため、電車の時間が迫っていた。
千里さん以外の男性に頼むのは気が引けるけど、この際仕方ない。