カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
千里さんは優しい。
不平や不満を口にしないし、私の意思を全て穏やかに聞いてくれる。いつも余裕があって、にこやかで、たまにドキドキする仕草をしてこちらを翻弄する。
思い返せば、彼の剥き出しの感情に触れたことはない。
常に一歩先を歩かれているような感覚で、必死に伝えた言葉を包み込んで受け止めてくれる彼は、あまり自分の気持ちを言わないのだ。
ぼんやり考え込んでいると、飾り帯を締めた鳴海くんは、はっとして続けた。
「すみません、失礼なことを言いました」
「ううん、気にしないで。たしかに、私たちは政略結婚みたいなものだから普通とは違うかもしれないけど、大切にしてくれているよ」
茶色がかった彼の瞳が、丸く見開かれる。
「この着物だって、すごく嬉しい。離れていても、一緒にいる気持ちになれる。茶会を少し不安に思っていたんだけど、おかげで頑張れそう」
「ははっ。さらっとノロケられた」
「えっ!ち、違うの。ノロケではなくて」
「冗談ですよ。……信頼してるんですね、美澄さんのこと」