カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
鳴海くんはにこりとして、側に置いていた私の鞄を差し出した。
「さ、帯はバッチリです。染森家の会場は最寄り駅から結構歩くんで、早めに行ったほうがいいですよ」
「ありがとう。色々手伝ってもらって助かったよ」
「いいえ。茶会、頑張ってくださいね」
いつもの人懐っこい笑みで見送られる。ひらひらと手を振る彼と別れた後、改めて着物に視線を落とした。
大丈夫。千里さんが選んでくれたなら、なにも心配はいらない。作法も、夜な夜な特訓をしてもらったおかげで頭に入っている。
そうだ。直接会えない代わりに、メールだけでも入れておこう。
華やかな訪問着のお礼と茶会に向けた気合いの言葉をしたためて、送信ボタンを押した。
仕事で忙しい彼は見ないかもしれないけれど、今夜彼が帰ってきたら、また感謝を伝えよう。
そういえば、鳴海くんが染森家の会場は最寄り駅から少し歩くと言っていた。まるで参加した経験のあるような口ぶりだったけど、千里さんから聞いたのかな。
私、茶会の話を彼に言ってあったっけ?
いや、今はそれよりも目の前の茶会に集中しよう。
小さな違和感に気づかないフリをして、駅へ向かったのだった。