カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~


 連れられるがままに、駅前のビジネスホテルに駆け込んだ。

 カードキーで開けた部屋の中には、鞄と黒い大きな荷物がある。

 あれって、着物ケース?

 目を丸くして眺めていると、扉の閉まる音とともに低く甘い声が耳に届く。


「すぐに脱いで」

「はい?」

「いや、やめた。俺が脱がせたほうが早い」


 体を支えられ、流れるように帯に手を伸ばされた。解かれる寸前で腕から逃げる。


「待ってください。せっかく千里さんにいただいた着物なのに」

「違う。これは俺が渡したものじゃない」

「えっ」

「茶会は、主催する亭主に敬意を表す意味で、亭主よりも格上の着物は避けなければならないんだ。華美なものもふさわしくない。それに、茶道具を傷つけるから帯留めも外すのが原則だよ」


 彼の口から飛び出した言葉に、理解が追いつかない。

 もし、三つ紋が入った格の高い訪問着を着て、きらびやかな小物を付けたまま茶会に行っていたら、とても失礼だったということか?

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