カラダから始まる政略結婚~一夜限りのはずが、若旦那と夫婦の契りを交わしました~
千里さんが用意してくれたと聞いて、なんの疑いもなかった。
老舗呉服店を営む美澄屋の若女将としては、あってはならない失態だ。
「すみません、私、なにも気がつかなくて……鳴海くんが、店に納品されていた着物を間違えて渡してしまったのでしょうか」
「鳴海が?」
「はい。今朝、千里さんがお店に寄ってこの着物を預けたって聞いたので」
彼は、わずかに眉を寄せた。
なにかを考え込む仕草のあと、小さく息を吐く。
「とりあえず、話は後にしよう。新しい着物を近くの店舗で用意したから、心配ないよ。はい、バンザイして」
「自分で脱げます……!」
状況を理解した私は、素早く身支度にとりかかった。
千里さんが持ってきてくれた着物は夏にぴったりの薄物だ。長襦袢が少しだけ透ける絽の着物は涼しげな印象を受ける。
淡い青は、はんなりとした優しい色づかいで、楚々としながらも美しい。肌触りも良く、繊細な刺繍が施してあった。美澄屋の一級品だろう。