悪役令嬢には甘い言葉は通じない。
こうしなくとも私だけ街に行けずに不貞腐れているというのに、こんな知らない男に感情を揺さぶられて溜まるものですか。
「そんな怒ってる顔もすごく素敵だ」
「からかっているおつもり?」
「お菓子をくれたお礼に今夜は素晴らしい夜にしてあげる」
それって一体どう言う意味かと尋ねるよりも先に、男が距離を縮めて来たかと思えば軽々しく私を抱き上げた。
あまりにも急な展開に声も出ず、私は男性に抱き上げられたまま動けなかった。
「俺の名前はルーベルト。以後お見知りおきを」
聞いてもいない唐突の自己紹介に反応出来ずにいると、男ーールーベルトの背中の翼が大きく開いた。
その翼が空気を自由に掴むと、バルコニーの床がどんどんと離れていく。
「ちょ、ちょっと!?」
「じっとしてて」
益々状況が分からなくなって行く私に、ルーベルトは優しく宥めるようにそう言って翼を羽ばたかせた。
生まれて初めて体験する風を切る感覚に、私はこの状況を放っておいて視界に飛び込んでくる情報に瞳を輝かせるしかほかなかった。
鳥のように空を飛んで屋敷の外を出たら、整備された林を越えていくとそこに広がるのは私が幼い頃から憧れた街がそこにあった。