悪役令嬢には甘い言葉は通じない。
「貴方、そんな所で一体何をしているの?!もしかして、盗人?!」
「仮にそうだとしたら、今こうしてお嬢様に声かけるのは流石に馬鹿としかいいようがないな」
よっと、と重たい腰を持ち上げるように立ち上がったかと思えば、軽々しく屋根から降りてバルコニーへ足を着いた。
この状況にどうしていいのか分からず、衛兵を呼ぼうかと考えるけれど男性がその隙をついて一気に距離を近づけてきた。
見知らぬ男性とこんな近い距離になる経験をしたことのない私は、思わず息を飲んだ。
歳は私とそんなに変わらないのだろうか、年上のオーラは感じられないが傍から見たらまずまずの好青年とも言える。
真っ黒な黒髪に、真っ赤に燃える炎のような赤い瞳にややとんがった耳が特徴的なその男性に、少し見とれてしまったことに悔しさを感じる。
色白で確かに鼻立ちが整っていて、文句の付け所がない美形とも呼べるであろう。
だがしかし、そんな美貌にも劣らない程の魅力を私だってもっているんですもの。
ここは私からも少し近づいて見せつけてやらなければ気が済みませんわ。
「えっとあの、お嬢様、距離がその……近い、です」
「最初に近づいてきたのは貴方の方よ?」
「少しは俺に動揺してくれても……」
「なんですの?」
ボソリと呟いた彼の声は残念ながら、私の耳には届かない。
何でもないとサラりと流した男性を私はこの近い距離ではあるが、上から下までじっくりと眺める。