悪役令嬢には甘い言葉は通じない。
全身黒い服で身をまとい、不思議なことに背中からはコウモリのような翼が見えた。
清潔感はあるもののそこまでいい服は着ていないし、その羽のオシャレポイントは私にはよく分からない所だ。
盗人にしては攻撃性を感じられることもないから、とりあえず衛兵は呼ばずに話を聞いてあげましょう。
冷静な目で見上げつつ、私は両腕を組みながら口を開いた。
「私に一体どのようなご要件でこんな屋根の上から来たって言うのです?」
「何だと思う?」
「それが分からないから聞いているのですけれど」
話が通じない人は苦手としか言いようのない私は、少しだけ眉間にしわを寄せてそう返答する。
そんな私を無視して男は楽しそうに笑って見せた。
「甘い甘い君というお菓子を頂きに来たんだよ」
嬉しそうにそう言って、私の手を取ると男性の口元に近づけていく。
だが私はその手を振りほどいて、慣れた足取りで部屋の中を歩きやれやれと戸棚の中を漁る。
「危険を犯して伯爵令嬢の部屋まで来たというのに、貴方はお菓子を求めにきたというんですの?」
そう言いながら見つけ出した焼き菓子を手に取って、不思議な男性の前に突き出した。
キョトンとした顔をしてみせる男に首を傾げつつ、先程振り払った手を取って今度は私がその手に焼き菓子を乗せた。