別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
それから何度か来店していただいたり、メールで打ち合わせをして、如月様のケーキのデザインが決まった。受け渡し日は三週間後。

彼のいう大切な人が誰なのか、それはきっと最後まで告げられることはないだろう。そんな気がしていた。

とにかく、私は如月様に満足していただけるようなケーキを作り上げることに全神経を集中させればいいのだ。余計な詮索はしない。そう心に決めて、ケーキ作りに没頭した。

そこからの三週間は予約が立て込んでいたこともあり、走り去るように過ぎていき、そして約束の日、如月様は颯爽と現れた。

「土台に淡い水色をもってきたのは空を舞う桜をイメージしてみたんですが……どうでしょうか?」

「実に素晴らしい。まるで本物の桜が空を舞っているようだ。繊細かつ優雅で、心を奪われてしまいました」

ショーケースに並ぶオーダーケーキを見て、如月様は最上級の褒め言葉を口にしてくれた。

作り手としてそんな風に言ってもらえることはこの上なく幸せなこと。安堵と嬉しさに染まっていく心の内は如実に表に現れて、いつの間にか頰が緩んでいた。
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