別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
「本当に素敵なケーキをありがとうございます。またそのうちお邪魔したいと思います」
桜みたいに柔らかな笑みを浮かべながら、如月様はそう言って、ケーキの箱を受け取ろうと手を伸ばす。
その瞬間、ふわっと鼻先を掠めたのはお線香の匂い。よくよく如月様を見てみれば、黒服に黒ネクタイの喪服姿であることに気がついた。
もしかして如月様の大切な人って、もうこの世には……頭の中に浮かんだその思いは、自身の表情を曇らせる。
お祝いごとのケーキしか作ってこなかった私にとって、それはあまりに予想外だった。そのせいで動揺してしまったのだ。
「どうかされましたか?」
「え? いえ、なんでもありません。ぼーっとしてすみません。この度はオーダーいただきありがとうございました。如月様の大切な方に喜んでいただけたら幸いです」
「ええ。きっと喜んでくれると思います」
またあのときの笑みだ。切なげなその表情に胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
だが結局、最後までそこに触れることはできなくて、胸の疼きを感じながら如月様を見送ることしかできなかった。
桜舞い散る季節に出会った、その麗しくもどこか陰のある紳士。その出会いが、私の運命を大きく動かすことになることをこのときの私はまだ知らない。
桜みたいに柔らかな笑みを浮かべながら、如月様はそう言って、ケーキの箱を受け取ろうと手を伸ばす。
その瞬間、ふわっと鼻先を掠めたのはお線香の匂い。よくよく如月様を見てみれば、黒服に黒ネクタイの喪服姿であることに気がついた。
もしかして如月様の大切な人って、もうこの世には……頭の中に浮かんだその思いは、自身の表情を曇らせる。
お祝いごとのケーキしか作ってこなかった私にとって、それはあまりに予想外だった。そのせいで動揺してしまったのだ。
「どうかされましたか?」
「え? いえ、なんでもありません。ぼーっとしてすみません。この度はオーダーいただきありがとうございました。如月様の大切な方に喜んでいただけたら幸いです」
「ええ。きっと喜んでくれると思います」
またあのときの笑みだ。切なげなその表情に胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
だが結局、最後までそこに触れることはできなくて、胸の疼きを感じながら如月様を見送ることしかできなかった。
桜舞い散る季節に出会った、その麗しくもどこか陰のある紳士。その出会いが、私の運命を大きく動かすことになることをこのときの私はまだ知らない。