五年越しの、君にキス。


「あれ。梨良、エロいこと考えた?」

「違っ……」

紛らわしい声のトーンで、勘違いするような言葉をかけてきたのは伊祥のくせに。揶揄うような軽口を言うから、タチが悪い。

恥ずかしいのを誤魔化したくて先に立ち上がると、伊祥がククッと笑いながら私の左手をつかんだ。

ソファーに座ったまま私を上目遣いに見上げた伊祥が、私の左の手のひらに唇を押し付ける。

私を見つめるライトブラウンは瞳は蠱惑的に揺れていて。手のひらに柔らかくあたる彼の唇が、そこ以外にも触れることを想像したら、下腹部がきゅっとした。


「戻らないの?」

「戻るよ。もう遅いし、早く寝ないとね」

「そーだね」と棒読みで同意したら、私の左手を指を絡めて握った伊祥が笑いながら立ち上がる。

明らかに私の反応を楽しんでいる伊祥に手を引かれながら、私たちはバーの個室を後にした。


< 115 / 125 >

この作品をシェア

pagetop