五年越しの、君にキス。

伊祥が挨拶するのは、彼のお父様と同世代くらいの男の人ばかりだ。

おそらく、どこか有名企業で役職の高い位置にいる方ばかりなのだろう。

美藤ホールディングスの三男である伊祥の立場でも挨拶しておくべき人。そういう人を見極めて、選んでいるらしい。

「僕の婚約者です」

社交辞令的な挨拶のあとに、伊祥が私のことをそんなふうに紹介してくれる。

どんな立場だかよくわからない人に頭を下げるのは緊張したけれど、『伊祥の婚約者』として紹介されることは意外にも嬉しくて。恥ずかしいけれど、なんだかこそばゆい気持ちにもなる。

知らない人たちへの挨拶を何度か繰り返して、小一時間が経った頃。ようやく必要な全て人たちに挨拶回りを終えた伊祥が小さくため息を吐いた。

「あー、やっと終わった」

伊祥が私にだけ聞こえるくらいの声で気怠げにぼやく。

せっかくカッコよくセットした前髪をくしゃりと手のひらで乱した伊祥の横顔は、いつもより少し疲れて見えた。


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