ライオン王子に飼われたネコさん。
三日振りに入った部屋はどこもかしこも静まりかえっていて、当たり前だが誰もいない。誰かが入った形跡もない。
あるのは、怜音の匂いだけだ。
彼はイタリアに行っていてここにいないのに、それでも存在を消してはくれない。
この部屋だけでなく、どこにいたってそうだった。街中も電車も会社も、家でさえも彼は絶対にどこかにいる。
本来ならば触れることはおろか、出会うことさえなかったであろう男と付き合っていたことが奇跡。
もう一度、そんな奇跡が起こるだなんて思っていない。せっかくの奇跡を自ら捨てた真白自身が一番よく分かっている。
だけど、百獣の王はやはり強くて、真白では逃げ切れなかった。
予定では明後日に帰ってくる。
後二日もあるのに緊張で心臓がバクバクと鳴っていて、後二日しかないから頭がぐちゃぐちゃになっていく。
(落ち着け。)
ちょうど心臓の近くにあるペンダントを握りしめ、深呼吸をする。
前に進むには彼からの別れの言葉を聞かなければならない。
紅羽が繋いでくれた夢の時間も終わりを迎えなければならない。
彼から聞かなければならない言葉も真白が言いたいことも決まっている。
「勝手に消えておいて好きだなんて言ったら、怜音はなんて言うんだろう」
不機嫌なことは何度もあった。けれど、今まで一度だって真白に対して怒ったことはなかった怜音も流石に呆れて怒るかもしれない。
好かれているという実感はなくても嫌われていないことは確かだった。
嫌われるかもしれない。
別れを告げられることも嫌われることも怖い。
怖くて仕方がない。
けれど、もう逃げない。