ライオン王子に飼われたネコさん。
久しぶりに呼ばれた名前に何だか泣きそうになった。
しかし、今はそれどころではない。

(なんでバレた?)

猫になってしまった真白本人ですら受け入れ難い現状なのに、なぜ名前を呼ばれたのか見当が付くはずもない。

とにかくこの名前に反応してはいけないということだけは分かっていた。

内心はひどく動揺していたが、外に出ないように欠伸をしたり顔を撫でてみたりして、いかにも猫っぽい振る舞いをして誤魔化した。


「……重症かよ。俺こそ眼科に行った方がいいかもな」

自嘲を含んだ笑いに振り返ると怜音はやはり真白の首筋を見つめていて、そこを親指でなぞるのだった。

「真っ白な毛並みのくせにここだけ黒子みたいな毛が生えてる。真白と同じ位置にあるなんて偶然にしてもすげーな」

(私、そんなところに黒子なんてあったんだ。)

首の後ろ側なんて鏡を二つ使わないと見えないので全く知らなかった。

本人が知らないことを彼が把握していることにも、そんなことでバレかけたことにも驚きを隠せない。

興味なんて持たれていないと思っていたけれど、流石に五年も付き合っていれば少しくらい興味を持ってくれていた時期もあったのかもしれない。

そう思うと少しは報われるような気がした。

「決めた」

クルリと体を反転させられ、向かい合わせになる。


「お前の名前はマシロにしよう」


真白はその瞬間、天に二物も三物も与えられた怜音にはネーミングセンスは授けられなかったのだと知った。
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