ライオン王子に飼われたネコさん。

「真白ちゃんが一日の内で人間でいられる時間がってことよ」

「はい!?」

「お風呂とトイレだったら二時間もあれば十分でしょう?猫になってる間は五感は猫そのものだからご飯も問題ないと思うわ」

「そ、そういう問題じゃなくて!私、仕事もあるんです!」

二十七才女性、社会人。非常に憂鬱な中間管理職に当たりつつある今日この頃。それなりに大事な役割を担っているのに仕事に穴は空けられない。

「ふふっ、そこは心配しないで!真白ちゃんの代わりに行ってきてあげる。私が体調を崩した時は真白ちゃんの有休を使わせて貰うね」

「心配しかないですよ!バレたらどうするんですか!」

有給は使う当てがなく溜まりに溜まっているので使ってもらうのは結構だが、自分の代わりに行くというのが気になる。

真白と紅羽では一致しているところを探す方が難しい。

「私と同じ魔女……それも強い力を持つ魔女か、よほど勘のいい人間でもない限りバレたりしないわよ?証拠に見せてあげる」

紅羽が真白の正面にしゃがみ、顔を近づけてくる。
バラの匂いがした。

コツン、とおでこをくっつけられる。紅羽の長いまつ毛がぶつかりそうで真白は思わず目を閉じた。

香り立つようなバラの匂いが消え、目を開ける。

真白は目を見開き、とっさに自分の姿を確認した。
猫ではない。人間の、正真正銘七瀬真白だ。

それなのに、目の前にも"真白"がいる。

「驚いた?」

真白はコクコクと何度も頷く。
声も真白のものだった。

「体も記憶も能力も、心以外は全てコピーした状態だから何一つ心配はいらないわ」
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