ライオン王子に飼われたネコさん。
最低限の身だしなみを整えた怜音は急に怖い顔をしてスマホをいじり出し、どこかへ電話をかけた。
だが、相手が電話に出なかったようでスマホはソファの上に投げ捨てられた。
スウェットから着替えているところを見ると今日も仕事があるのだろう。時間が余っているのか、ソファに深く座り込んでぼーっとし始めた。
(桃坂さんが迎えにくる前に準備が終わっている日が来ようとは……!)
マシロはさっきまでの暗い気持ちはどこへやら、我が子の成長を見守る母親のような気持ちで感動してしまう。
ドアベルが鳴る。
真白がいない時は何十回でもけたたましく鳴らされるのだが、たった一回で怜音は開けに行った。
マネージャーである桃坂は合鍵を持っているが怜音の部屋に入って起こすのは最終手段と決めている。桃坂が女性だということもあるが、怜音のプライベートを尊重しているためだ。
玄関扉を開けた瞬間、桃坂が感激の声を上げるのが聞こえた。
これまで怜音という問題児に悩まされてきた桃坂からすれば、彼が自分で起きて、一度でドアを開けてくれて、準備もとっくに終わっているこの状況は奇跡と言える。
久しぶりに彼女の顔が見たくなって後ろからそっと見るつもりだったが、常にファンからモデルLeoを守る桃坂は少しの視線にも敏感ですぐに見つかった。
黒のかっちりしたスーツに、乱れひとつないお団子頭。まるでどこかの秘書か、下手すればSPのような彼女こそ、間違いなく怜音のマネージャー。
そんな彼女の切長の目が真白を一点に見つめる。
「この子、どうしたの?」
さっきまで感動の涙を流していたはずなのに、涙はシュンっと引っ込んで厳しい顔で怜音を見上げた。
彼女も怜音が動物を飼えるタイプではないと思っているのがよくわかる。知り合いから預かっていることを伝えると心底安心したように微笑んでいた。
「じゃあな」
最低限の荷物を持って今日も怜音は仕事に行った。