篝火
 


「叶恵ちゃんどうしたの」


 佐橋雄馬は危険だ。なんでそんなことに今になって気づいたのだろう。

 もっと早く知るべきだった。わかっていた、いや、本当ははじめからわかっていたのだ。わかっていたからこそ、あの狂気に足を踏み入れてはならないと体が警鐘を鳴らしていた。

 私ははじめからあの狂気を前に自分が軍配を上げられると到底思っていなかったのだ。それらしい言葉を並べて、だからこそこの幼馴染みの見てからばかりを更生してその気になっていた。なんて愚かなんだろう。


「叶恵ちゃん、顔色が悪いよ」

「ごめん、ごめん甚介」
「どうしたの」
「私が全部悪い」


 あの男の正気に立ち向かえなかった私が悪い、甚介を救うと宣って何にもなれなかった私が全部悪い。

 その日四限目の課外授業は、天体観測だった。学校の裏山に登ってその時期に空を駆けるというしし座流星群を捉え記録すると言う名の、気晴らし授業のようなもの。まともにしし座流星群を拝む生徒がいないことを知っているのに夜の中に私たち生徒15名を解き放った生物教師はもう見えない。事実夜の茂みの中に私は目の前の甚介とふたりでいて、黙って歩いていたからもう学校からはだいぶ遠く離れていた。


「佐橋に立ち向かえなかったのは、私が弱いからだ」

「…」

「あの男は危険だ。まともじゃない。狂ってる。じゃなきゃ意味もなく甚介を傷つけたりしない。もっと早く気づくべきだった、違う気付いてた、でも踏み出すのが怖かった、臆病者は私だ、ごめん、ごめん甚介」

「いいんだよ、叶恵ちゃん。ショックだったね。ごめんね。…本当に許せないよ、いつも強い叶恵ちゃんをこんなにも追い詰めた佐橋のことが。僕は大丈夫だよ、叶恵ちゃんが戻ってきてくれるってわかってたし、優しいことも、決定打がないと踏み出せないことも、戻ってきてくれないことも知ってたよ。でも頑張った甲斐があったよ、すごく骨が折れたんだ、






       あいつらすごく逃げ回るからさ」





「………え?」

 甚介が私の手首を掴み、茂みの奥へと進んでいく。奥へ、おくへ、道なき道を、ざかざかと。

「何も心配しなくていいよ。もう大丈夫。理由なら僕が作ったからね。理由の上じゃないと正統は成り立たないもんね。叶恵ちゃんの正義は僕が守ってあげる」

「甚介、」

「ホームセンターであるだろ? あの草刈り用の鎌。あれをさ、振りかざしたんだよ。逃げ惑う白はすぐに赤くなったよ。定刻に、佐橋雄馬の友だちの関口がそこで待ってるって告げようとしてた、でもなかなか仕込むのもうまくいかなくって、どうしよっかなーって思ってたら僕が「理由」を作ってるところを佐橋に見つかってさ、ふふ、好都合だったよ。佐橋びっくりしてたけどちょうどその時に用務員のおじさんがやってきてね、僕の顔見られちゃったんだよ。だからね、僕怖くなって用務員さんの顔に鎌を振り下ろしたんだ、人の顔が真っ二つになって僕は驚いてそれで」

「甚介!!」









 甚介が、やわらかく微笑む。










「遺体を校舎の裏庭に埋めたんだ」

 


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