夜のすべてでずっとすき
「これから、だれとはんぶんこしろって言うの」
「しないで、ぜんぶ食べて。それか、おれのぶんって言って空に掲げてくれてもいいよ」
はんぶんこしよって言い出すのはいつも速水で、そのくせ速水は、ひとくちぶんしか食べなかった。あとはぜんぶわたしにまわす。そんなひとくち、誤差でしかないって知ってる。知らない。知りたくない。
「ココアは?」
「綾元が飲んでよ」
こんな缶ココア、何の役にも立たないな。いまさらはんぶんこはできないし、缶も自分で開けられるようになってしまったし。
速水に開けてって言ってたのが、ずっとずっと遠い。
「さっきの話、なんだったの」
「例え話?」
「うん」
手紙じゃなくて直接。それは、つまり、いまの話でしょ。もし、タイムスリップができたらの話じゃないんでしょ。いまのわたしたちの状況、まじわれない世界での話な時点で、例え話はだいぶ破綻している。
例え話なら、もっと、しあわせを例にとればいいんだから。
「……捨てた?」
「捨ててないよ」
「捨てなよ」
「捨てないよ」
速水は、何、とは指さなかった。でもすぐわかるよ。手紙のことでしょう。
速水、手紙だいすきだったもんね。
いまも、最後にもらった手紙、捨ててない。捨てろって言われたけど、捨てられるわけもなかった。速水はその手紙を自分の手で捨てようとして、干渉できなかった。