夜のすべてでずっとすき
「あれ、ほんとう、おれ最低だから」
「まだ読んでないもん。わかんないよ、そんなの」
──捨てないんなら、おれが消えてから読んで。
約1か月前、夜を透かす体で現れた彼は言った。その言葉の前には捨てろって何度も言われて、わたしは聞かなくて、そのあとああ言った速水の声は震えていた。
目の前で泣いてたって、何もできないから。
「……さっきの、例え話」
「うん」
「ただの例え話にして終わらせるつもりだったんだ」
「うん」
「手紙に書いたこと、言っただけ。おれがいなくなってからそれ知るよりも、いま、なのかなって思い返して」
うん。
あいづちがうまく喉から上にいかない。くちから出ない。
「でも、今日でいなくなるじゃん。……どっちにしろ、おれ、最低だな」
「最低じゃないよ」
震えた、締め付けられたような声しか出ないことが悲しい。
「いなくなる人間が残す言葉は、問いかけじゃよくなかったんじゃないかって思うんだ」
「わたしは思わない」
「例え話にするつもりもなかった。言うつもりだった。告白、を、するつもりだった」
まぶたが落ちる。涙をこぼすまいと、勝手に、きつく、固く、落ちる。
その状態でうなずいたら、あっけなくこぼれてしまった。