獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 無意識に腕が女神に向かって伸びる。長く床を踏みしめていた足もゆっくりと持ち上がり、前に踏み出しかける。
 ――カタン。
 ヴィヴィアンが石鹸を置く際にあがった小さな物音でハッと我に返った俺は、弾かれたようにシャワー室を飛び出していた。
 扉を閉め、脱衣所の無機質な天井を仰ぎ見る。
 いまだ目にした光景が信じられない思いだった。血が巡る音がドクンドクンと煩いくらいに鼓膜に反響していた。身の内に篭もる熱も一向に冷める気配はなかった。
「ヴィヴィアンが、……女」
 高ぶる思いのまま口内で呟けば、身の内に灯った熱がぞくりと疼く。胸で熱く滾る興奮と歓喜は鎮まるどころか、逆にその勢いを強くした。
 しかし、それも道理だろう。この現実は俺にとって、天から差し込んだ一筋の光明なのだから――。
 俺はこれまで、ヴィヴィアンの真っ直ぐな言動がずっと好ましかった。その清らかな思考が愛しいと思った。
 そして、俺の『耳なし』を知った時に彼が示した反応に心が熱く震えた。誇張でなく、魂まで揺さぶられるような衝撃を覚えていた。
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