獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 その時、マクシミリアン様が壁に突くのと逆の手を持ち上げたかと思ったら、大きくて厚い手のひらで私の頬をそっと包み込んだ。
 まるで宝物にでも触れるような丁寧さがこそばゆく、まろやかな温もりがじんわりと染みてくる。しかし優しい手は、確実に私から退路も奪う。
 逃げることなど許さないとでもいうように、視線がしっかりと彼に固定されてしまう。
 強固な決意を宿した両眼から目が逸らせないまま、ゆっくりと開かれる唇が紡ぐ言葉に耳を傾ける。
「ヴィヴィアン、俺はお前を――」
 ――バッターン。
「ガブリエル国王、おやめください!」
「おーいマクシミリアン、いるのかぁ?」
 ノックもなしに扉が開かれたと思ったら、近衛兵の制止を振り切って現れたガブリエル様ののんきな声が室内に響く。マクシミリアン様は瞬間的に私の上から退き、射殺すような目をして扉を振り返った。
「昨日はああ言ったけどよ、やっぱしひとり酒は侘しくっていけねえぜ。前言は撤回だ、昨日の酒の残りがまだあんだろ? 飲もう……って、なんだ?」
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