獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 とにかく舞台の上で見る俺のヴィヴィアンは、その存在感が飛び抜けていた。
「ハッ! これはいい! 今日の舞台は間違いなく、これまでに観たどれよりも楽しめそうだ」
 隣の席のガブリエルが、主演の代役がヴィヴィアンだと気づき、期待半分冷やかし半分に声をあげた。
 俺はガブリエルの軽口に答える間すら惜しみ、彼女の一挙手一投足、一言一句とその息づかいまで見逃さぬよう、聞き逃さぬよう、食い入るように壇上を見つめていた。
「……やれやれ。なんて目で見ているんだか」
 ガブリエルが何事か呟いたような気もしたが、集中する俺の耳には意味あるものとして届かなかった。
 それっきりガブリエルは口を閉ざし、以降は彼自身も身じろぎひとつせず、観劇に意識を集中させていた。
 ヴィヴィアンの舞台は魔力でも秘めているかのように、観る者をその世界に引き込んでしまう。実際にそこに自分が生きているかのような臨場感で、その世界が体感できるのだ。
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