獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!
 私は小さく断ってから、すっかりピンと持ち上がった虎耳をそっと撫でた。指先に触れた真っ白な毛並みは、ハミル様が下した尊い決断に負けないくらい尊い感触がした。
 幾度か柔らかな毛並みを梳いてから手を引き、再び視線を広場に戻す。いまだふたりの陛下を称える声は止む気配がなかった。
 しかし、マクシミリアン様が国民に向き直りスッと手を挙げると、騒めく広場はシンッと静まった。
「ヴィットティール帝国とアンジュバーン王国の国交正常化を祝し、そしてこの場に集うすべての国民に感謝し、今宵はこのまま皇宮前広場を解放する。皇宮から祝い酒と料理の提供も行う。今日ばかりは無礼講だ。ヴィットティール帝国の新たな門出となる記念の日を、存分に楽しんでくれ」
「「マクシミリアン皇帝陛下万歳――!」」
 再び沸き上がった広場は、そのまま静まる気配がなかった。
 国民はマクシミリアン様とガブリエル様、両陛下の話題を肴に祝い酒をあおり、興奮と歓喜のまま朝日の訪れを迎えることになりそうだった。


 その沸きに沸いたマクシミリアン様の演説から僅か一時間後。
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