今宵、狼神様と契約夫婦になりまして(WEB版)

「ただ単に別の邪鬼の始末に追われてて、出遅れただけだろ?」
「いや? 心配した新山ちゃんが電話をかけてくるところから、全て計算通りだけど?」

 すまし顔でそう宣う高塔に、相澤は内心で「うそをつけ」と言う。

 ──けれど。

 あの日、陽茉莉を来させるという判断を高塔が下したおかげで相澤が助かったのは確かだった。

 陽茉莉の癒札がなければ、回復まで数時間かかった。その間に善良な市民が襲われる危険や、邪鬼自体がどこかに逃げてしまい見失う可能性があったのだ。
 現にあのとき、相澤と高塔は二匹の邪鬼がどこにいるのか見失いかけていた。

「いやー、それにしても、新山ちゃんが祓除師になるなんてねえ。しかもまだ始めたばかりなのにあの癒札の効き具合、かなり才能ある気がする」

──それこそ、琴子さんを超えるかもね。

 グラスを置いた高塔は感慨深げに呟きながら、湯葉入りだし巻き卵に箸を伸ばす。この店の看板メニューのひとつだ。
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