i -アイ-
テーブルを拭く碧さん。
あたしは洗い物を終えて、手を拭き、碧さんに近づく。
「碧さん」
碧さんがこちらを向いて、あたしは碧さんの頬に手を滑らせる。
「ありきたりだけど、俺を信じてください。最後まで信じてください。俺からの願いはそれだけです」
手を下ろそうとした時、その手を碧さんが軽く握る。
「信じるって、いつまで…?」
光を宿さない瞳。
対照的な縋るような声。
「俺が、死ぬまで」
ニコッと笑えば、手を握る力を強める碧さん。
「藍人が死ぬまでって、その頃とっくに俺が先に死んでるだろう」
……寿命までちゃんと生きられる計算をしてくれている。
心臓が震える。目頭が熱くなる。
塞き止めろ、この感情を。
今は出す時じゃない。
碧さん、……碧さん。
あたしは目を閉じて深呼吸をする。
すぅっと一筋だけ涙が零れていく。
碧さんの手がピクッと反応する。
ああ、苦しい。
榛人、あたしの父親は酷い人だ。
色んな人を巻き込んで。
でも、きっと、あたしでもそうしたと思う。
目を開く。
碧さんを真っ直ぐに見る。
「俺もシャワー浴びてきますね」
あたしの手を握る碧さんの手を、握られていない方の手で解く。