今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……私が行けば、少しは気が紛れますか?」

『またタクシーでひとり帰すことになるかもしれないけれど。それでも許してくれるなら』

――ここから病院まで片道四十分、それだけかけても、会えるのは五分、十分かもしれない。この前みたいに、また一時間半待たされるかも。

それでも、彼が会いたいと言ってくれるならば――ううん、私が彼の顔を見たいから、その一見無駄な時間すら価値があると思えてしまう。

「着いたらこの番号にお電話します」

私の答えを聞いた彼は、クスクスと笑いだした。

『あんずちゃんって、人がいいんだね。なんだか振り回すのが申し訳なくなってきちゃったよ……』

「振り回そうとしてたんですか?」

『横暴な自覚はあるよ。そっちから会いに来いだなんて』

きっと彼は、自分のワガママに付き合わせていると思ったのだろう。私が善意で足を運ぶのだと。

でも、本当は違う。もっと利己的な理由だ。

かといって、会いたいから会いに行くだなんて素直に言えるわけもなく。

「……そんなんじゃ、ありませんから」

それだけ言って通話を切った。私は急いで外出の準備を済ませコートを羽織る。

電車を乗り継ぎ、須皇総合病院へ。

到着する頃にはもう二十時を過ぎていて、闇に沈む病院はすごく静かだった。


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