今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「ここだからこそ、こうして逢引できるんじゃないか」

ゆるりと挑発的に首を傾げる。表情は涼しげなのに、眼差しには熱がこもっている。

風が冷たくて寒いのに、不思議と体が温かくなってきた。

「わざわざこんな時間にこんな場所まで来てくれるなんて思わなかったよ」

「思ったより元気そうで、拍子抜けしました」

「医者がいつまでも患者の死を引きずるわけにはいかないだろう。次の患者が待っているんだから」

ふうと短く息をつき、私の腕から手を離す。

こんなに近くにいるのに、ちょっかいのひとつも出してこないなんて。

ただじっと私の瞳を見つめるのみ。やっぱり彼は疲れているのかもしれない。

「……亡くなる患者さんって、二種類あると思うんだ」

不意に切り出して、彼は私にカフェラテの缶を押しつけた。

缶はもうすっかりぬるくなってしまっている。もしかして、ずっと前からここにいたんじゃ……?

「ひとつは、死から逃れられない患者さん。今の医学ではどうにもならないし、助けられる人もいない。もうひとつは、医者の腕がよければ、あるいは、あと少しだけ運がよければ助かった患者さん」
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