今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「なにかを捨てなければならないと、どこかで思い込んでいたんです」

「実際、そうかもしれないよ。時間は有限だ。さすがに君の時間を物理的に増やすことはできないからね」

「でも、仕事も子どもも全部手に入れたいと思うことが、ワガママじゃないんだって思えたから」

『すべてを手に入れてなにが悪い?』そんなふてぶてしい彼の言葉が救いのように思えて。

私は私の道を見つければいいんだ、そう考えたら、少しだけ心が楽になった。

「俺と結婚したことを後悔させたくない。無理やり妊娠させられたなんて思われないように、しっかりと君をしあわせにしないと――」

その言葉の続きを、私は彼の唇に人差し指を当てて封じる。

驚いたような顔をする彼を、控えめに見上げた。

「無理やりなんて、思ってない……くれたんだって、思ってる」

彼が不思議そうに首を傾げる。私は自身の言葉を補足するように、ゆっくりと考えを口にした。

「……赤ちゃん。たまたまでも、衝動でもない。私のお腹に、授けてくれたんだって思ってる」

「杏……」

彼は大きく目を見開いて、やがて眉をハの字にして笑った。

困っているのか、喜んでいるのか――彼にしては作り笑いがとても下手で。
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