今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
それ以来、患者は大人しくなり、俺は次第に隣のベッドの彼女のことを気にするようになっていった。

リハビリを一生懸命に頑張る彼女。弱音を吐くこともなく、俺の目からはとにかく強くたくましく映った。お世話になった医師や理学療法士に「ありがとう」とはつらつとした笑顔でお礼を告げる姿が印象的だった。

やがて噂で彼女の夢はピアニストだったと耳にした。そして、その夢は絶たれたとも。

そんな状況に置かれて、彼女はどうして笑っていられるのだろう? こんなにも苦しいリハビリを文句のひとつも言わずに続けられるのだろう。

退院の日。彼女は主治医である眞木先生にありがとうございましたと笑顔で告げていた。

患者を見ている医師がいれば、医師を見ている患者もいる。

それがなんだか新鮮で、羨ましくもあり、俺は初めて医師という道を選んだことを誇らしく思った。

医師という職業を全力で全うしたいと、初めて思うことができた。
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