今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
『そう。覚えていないかな? 西園寺先生が患者に水をかけられたとき、松葉杖を振り回して怒ってくれた女の子のことだよ』

ああ。あの子はそんな名前だったっけ。

当時はまったく興味のなかったその名前が、今度はすぐに覚えられた。白い雪に杏――なんだかおいしそうな氷菓子のような名前だ。

『ああいう一生懸命な子、応援したくなるだろう? 頼むよ、引き受けてやってくれ』

『そんなに言うなら眞木先生が引き受ければいいのに』

『俺の写真写りの悪さはよく知っているだろ』

思わず噴き出す。病院のウェブサイト上にあるスタッフ紹介で、眞木先生はひどい顔をしていたっけ。

実物は割と男前なのに、二次元にするとどうしてこうなってしまうのかと、病院スタッフみんなで笑い者にした覚えがある。

『その子――あんずちゃんを口説いてもいいならやりますよ?』

ちなみに眞木先生からは『無理強いしない範囲でなら口説いてもよし』という許可をもらった。

夢を捨てることになっても、毅然と前を向いてリハビリに励んでいた女性。そうか、雑誌の記者になったのか。

八年の時を経てどんな姿に成長したのか。わくわくしながらその日を迎えた。
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