今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
週末は学会のために関西へ飛んだ。妊娠中の彼女をひとり置いていくのは心苦しかったが、実家もこのままにしておくわけにはいかず、帰省をかねて向かうことに決めた。

学会の帰りに父親と合流し、馴染みの料亭で食事をする。

父とこうしてふたりきりで食事をするのはいつぶりだろう。研修医として東京に来て以降、まともに話をしたことがなかった。

スーツ姿で向き合うのはなんだか照れくさく、不思議な感じがするものだ。

「帰ってこいと言っても音沙汰なし、逃げるように海外へ行く、とんでもない放蕩息子だと思っていたが――」

父は日本酒を飲みながら苦笑した。俺も同じ酒をもらい、酔わない程度に嗜む。

「別に後を継ぐのが嫌だったわけではないですよ。見合いが嫌だっただけです」

「私はお前の結婚相手など誰でもいい。母さんはこだわっているようだが」

医者バカともいえる父親。家庭のことは顧みず、母とは険悪な仲。

父は母を愛してはおらず、ないがしろにされ続けてきた母も父と同様、夫に愛を感じていない。

そんな両親の姿を見てきたせいか、自分の意思のない結婚――見合いだけはなにがなんでも嫌だと感じていた。
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