今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「だって、母さん、いつも満足して反論をやめるぞ」

「それは満足したのではなく、呆れが限界に達して黙っただけですよ」

……どうやら父は母に愛情を感じていないわけではなく、激しく空回りしているだけらしい。あるいは、人としてものすごく不器用なのか……。

残念な父である。

「父さんは、もう少し母さんのことを知ることから始めたほうがいいですよ」

「……善処する」

今さら善処したところで変わるとも思えないが、このまま勘違いを続けるよりはマシだろう。

たまには夫婦で話し合いの時間でも持ってもらいたいものだ。

「もういい歳なんですから、いい加減母さんとも向き合ってください。そんなんだから俺も櫂生(かいせい)も見合いから逃げだすんですよ」

櫂生とは俺の弟だ。医者の道を選ばず、経営側に回った。俺が病院を継ぎ、櫂生がグループ企業の舵取りをする――そんな青写真が父の頭の中にはあるはずだ。

そして、櫂生も俺同様、両親から勧められた見合いをバックレた経験がある。

「ああ……櫂生も見合いは嫌だと逃げ腰なんだよな……もしかして、結婚に希望が持てないのは、父さんと母さんが悪いのか?」

「やっと気づいてもらえてうれしいです」

「……善処する」
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