今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
たいした期待もできないとは思うが……。それで母の神経が少しでも休まるなら、ぜひそうしてほしい。

いつの日か実家に帰ることをほのめかし、父と別れた。

少し心配なのは、まだ杏にきちんと実家のことを説明していなかったこと。

もしも彼女が関西に行くことに抵抗を示したなら――関東支部でも作るか?

そんな冗談とも本気ともつかないことをぼんやりと考えながら東京に戻った。



「悠生さん、お帰りなさい。久しぶりの実家はどうでしたか?」

家に帰ると、一足先に入浴を済ませた杏が、ゆったりとしたナイトウェアを着てソファでくつろいでいた。

昨日一日合わなかっただけで、妙に懐かしく感じられる。

当直明けなんかもそうだ。彼女の表情が妙に気になり、今日は少し疲れているのかな? なんだか機嫌がよさそうだ、なんて顔色をうかがってしまう。

お腹も、ほんの少し大きくなったような。もちろん、一日で変わらないとは思うのだが。

俺は神経質なのかもしれない。この年になるまで気づかなかった。神経を使うのは、彼女に関することのみであるが――最近は彼女の一挙手一投足に踊らされている。
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