今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「ただいま、杏。実は、実家には帰らなかったんだ。ただ、父とは食事をしてきた」

「そうですか。お父さまは、なんて?」

津々の興味を隠しながらこちらを覗き込んでくる。

気にしない素振りをしつつも、心配なのだろう。この結婚を、そして出産を、俺の両親が認めてくれるかどうか。

「結婚に異論はないそうだよ。ただ、実家の病院のことはきちんと考えてほしいと言われた」

杏の隣に腰を下ろす。いつか一緒に関西に行ってほしい、そんなことを言ったら嫌がられてしまうだろうか。柄にもなくドキドキなんてしながら、彼女の手を握り、切り出した。

「ねぇ。杏。将来のことなんだけれど――」

「悠生さんは、いずれ関西の実家に帰って、病院を継ぐことになるんですよね?」

順を追って説明しようとしていたことをスパンと言い当てられ、苦笑する。

「……そう。でも、もし、君が――」

行きたくない、と言ったなら。

俺は彼女の意思を尊重したい。西園寺グループを関東へ進出させその指揮を執ると言えば、関西へ帰らなくても納得してもらえるだろうか。

弟には申し訳ないが、関西側は任せてしまって――そんな計略をぐるぐると巡らせていると。
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