今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「あんずちゃんか。かわいい名前だね」

その甘い言葉に、本能が警告を発する。

この人、口説き慣れている。とりあえず女性を喜ばせようとするあたり、すごく狡猾だ。

軽くて、チャラくて、患者の命よりプライベートを優先する悪辣医師――軽蔑しかけたところで、ちょっと待ってと自分の中でストップをかける。

第一印象は最悪だったけれど、彼だってれっきとしたお医者さま、やる気の有無に関係なく、人の命を救ってきたことに間違いはないだろう。

それに、循環器に強いこの病院が、生半可な実力の心臓外科医を置いておくわけがない。きっと腕はいいんじゃないかな。

なにより、見た目が完璧、女性誌のページを飾るには、彼以上の逸材はない。

私の彼に対する個人的な評価はこの際置いといて、ライターとして仕事をまっとうしよう、そう決意する。

せっかく眞木先生が紹介してくれたんだからと頭を切り替えて、友好的に振る舞った。

「ありがとうございます。この名前は、自分としては響きが子どもっぽくてあまり好きではないのですが、そう言っていただけるとうれしいです」

「甘酸っぱくて瑞々しい――君にぴったりな名前だと思うけどね。俺は好きだよ」

ドキリとするような目で笑いかけてくる。柔らかな口調とは裏腹に、眼差しはすごく鋭い。
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