今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
コートを手に持ったままなので、ヒヤリと寒い。でも、彼なんて白衣だ。もっと寒そう。

さっきからその格好でここを往復しているけれど、大丈夫なのだろうか。

「ゴメン、寒い? すぐ室内に入るから」

「大丈夫ですよ、寒さには強いほうです」

「でも、ずっとそこに座っていただろ? だいぶ体が冷えたんじゃない?」

西園寺先生はおもむろに、さっき私が座っていたベンチに視線を向けた。

「私が座っていたこと、覚えているんですか!?」

顔も知らない赤の他人なのに、ベンチに座っていたことを記憶しているだなんて。

しかも、彼は患者や看護師とずっと会話していて、周りを気にしている素振りなんてなかったのに。

「外を出歩いている人の顔は見ているよ。患者なら病室へ帰さないとならないからね。よくいるんだ、安静にしてなきゃならないのに脱走する患者さん」

「……なるほど」

患者さんに風邪でも引かれたらたまらないのだろう。この寒空の下でずっとベンチに座っていた私は、彼からすると要注意人物だったのかもしれない。

「それに」と彼がぽつりとつけ加える。
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