今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
途端に慌ただしくなる手術室。助手が、麻酔科医が、臨床工学技士が四苦八苦している中、中心に立つ西園寺先生だけは揺るがず毅然と指示を飛ばしていた。

その姿が気高くもあり、すべてを一身に背負う様は痛々しくもあり、とても見ていられなくて、部屋の奥の椅子に座ってじっと目をつぶって祈っていた。

やがて持ち直してくれたようだ、気がついたら手術室に静寂が戻っていて、心臓モニターの数値も安定し、処置が再会されていた。

こんなギリギリの戦場で指揮を執る西園寺先生のことを、初めてすごい人なのだと実感した。

「さ。西園寺先生のところへ行こうか。もうすぐ出てくるはずだから」

家族待合室のあるエントランスで待っていると、やがて手術着から白衣に着替えた西園寺先生が、手術室に繋がる大扉から姿を現した。

……しかし、その姿は私が知る彼とはちょっと違って見えた。

昼間とは異なる険しい眼差し。冷ややかで、非情で、それでいて強く頼もしく見える。

これが、命と向き合ってきた目なの?

これまで見たことのない種類の表情だ。ぞくりと肌が粟立つ。

西園寺先生は眞木先生の隣にいる私を見て「ずっと待っていたの?」と神経質そうに表情を歪めた。
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