今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「でも、執刀をこなしたほうが人に感謝されるのでは? 言っていましたよね、患者さんの『ありがとう』という言葉を聞いて医師という職業に誇りを持てたって」

「重要なのは誰がやったかじゃない。その患者が助かることだ」

鋭いものいいに、ペンを走らせる手が止まる。

「『ありがとう』を聞きたいから医者をやっているわけじゃない。医師という仕事に価値を見出したからやっている。俺がいるから救える命がある。執刀だろうが、助手だろうがね。感謝の矛先がどこに向かったって、別にかまわない」

この人は本物の医師だ、そう思った。

名誉や、自己実現、顕示欲のためにメスを振るっているわけではない。彼の場合は人を助けるため。患者が助かる道を一番に考えている。

彼はスポーツドリンクをごくりとひと口飲んで、ふうとひとつ息をついた。

「別にヒーローになりたいとか、そういうのじゃないから」

「でも、今日の患者さんからしたら、先生はヒーローですよね」

「……そうかもね」

西園寺先生はにこりと笑う。大胆不敵な笑み。

日中は軽薄そうに見えたけれど、今では少しドキドキする。彼の意外な一面を知ってしまったせいだろうか。
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