今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「……やっぱり、以前どこかでお会いしました?」

「…………いや」

彼はふいっと目を逸らし答える。

「君の瞳に別の男が映っているのが気に食わないってだけ。男のプライドってやつだよ」

困惑していると、彼はボトムの腰ポケットから財布を取り出した。中から一万円札を抜き取り、私へ差し出す。

「え? え? え?」

なぜお金? ポカンとしていると、彼は少し申し訳なさそうに言い放った。

「タクシー代。眞木先生にはついあんなこと言っちゃったけど、まだここを離れるわけにはいかないんだ」

西園寺先生が目線で手術室の奥を示す。もしかして、術後の患者さんを気にしているのだろうか。

「さっきの当直の話は、嘘だったんですか?」

「当直が豪華なのは本当。でも、あの患者を執刀したのは俺だから。俺がいたほうが急変時、スムーズに対処できる。もう少し容体が落ち着くまでここに残るつもりだ」

そう言って、私の胸元に一万円札をずいっと押しつける。

「お金なんて結構です……だいたい、交通費は経費ですし」

「君を送り届けるって、眞木先生に約束しただろ。俺を約束のひとつも守れない男にするつもり?」

ぶっきらぼうにそう告げると、私の手首を掴み手術室のあるフロアを出る。
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