狼男  無限自殺 編


1課のフロアを出た後、
隣を歩く綾野に視線を送る。


「悪く思わないでくれな。

松本さんは面倒見が良くて、
人が良すぎるお節介先輩だから。」


「・・。」



“大丈夫です”と無言の頷きを見せてくれた後、エレベーターへと乗り込む。



・・・綾野の事を知らない人から見たら、

まず印象として残るのは、
【喋らない奴】なのは間違いない。


俺も初めて彼と対面した時にはそう思った。


中性的な顔立ちで、若者言葉で言うと・・・確か・・・あれ?なんだっけ・・?


“えびす顔”じゃなくて・・
あ、[塩顔]だ。


とにかく、第一印象は[優しそうな無口な青年]だった。





《彼は喋らないのではありません。
“喋れない”んです。》


俺が知っている綾野の事。

優しい眼差しを持ち、でも剣を握ると一変してストイックに鍛錬に励む。


新撰組が好きな父の影響で俺は幼い頃から“天然理心流”を学んだが、

綾野は椿刑事部長の指示で“北辰一刀流”を極めた。


天才剣士 千葉周作によって編み出された流派で、

坂本龍馬や伊東甲子太郎が学んだ剣術としても知られている。


< 17 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop