狼男 無限自殺 編
1課のフロアを出た後、
隣を歩く綾野に視線を送る。
「悪く思わないでくれな。
松本さんは面倒見が良くて、
人が良すぎるお節介先輩だから。」
「・・。」
“大丈夫です”と無言の頷きを見せてくれた後、エレベーターへと乗り込む。
・・・綾野の事を知らない人から見たら、
まず印象として残るのは、
【喋らない奴】なのは間違いない。
俺も初めて彼と対面した時にはそう思った。
中性的な顔立ちで、若者言葉で言うと・・・確か・・・あれ?なんだっけ・・?
“えびす顔”じゃなくて・・
あ、[塩顔]だ。
とにかく、第一印象は[優しそうな無口な青年]だった。
《彼は喋らないのではありません。
“喋れない”んです。》
俺が知っている綾野の事。
優しい眼差しを持ち、でも剣を握ると一変してストイックに鍛錬に励む。
新撰組が好きな父の影響で俺は幼い頃から“天然理心流”を学んだが、
綾野は椿刑事部長の指示で“北辰一刀流”を極めた。
天才剣士 千葉周作によって編み出された流派で、
坂本龍馬や伊東甲子太郎が学んだ剣術としても知られている。