やわらかな檻
 襖を閉めた直後も寒い寒いと騒ぐので、暖房をつけることにした。

 息苦しいからとこれまで暖房をつけずにいたが、しんしんとした冷たさが忍び込む今だって息苦しかったのには変わらないから諦めた。

 胸から喉の辺りが重くて仕方がない。もしかすると一生、息苦しいまま生きていくのかもしれない。

 兄を立たせるわけにもいかず、並んで座る形になってしまった。

 普段なら彼女がいた位置に我が物顔でふんぞり返った兄は、ソファの背に身を預けながらも小さく零した。


「今日はクリスマスイブだよ、弟君」


 前を見据えたままの、独り言のようなその声音が横柄すぎる座り方とあまりに裏腹で。

 それが何となく微笑ましかったのか、クリスマスの幸せそうな響きがこの屋敷に不似合いで面白かったのか、気付けば僅かに口許が緩んでいた。

 この人は、まるで彼女のような発言をしている。


「まさか貴方まで、そのようなことを言い出すとは。驚きました」

「貴方まで――なるほどね。小夜ちゃんとケンカした原因はそれかい?」


 いつの間にちゃん付けするほど仲良くなったのだ。

 咄嗟に眉を顰めて、遅れて頭が冷えていく。先ほどツリーの箱に目をやっていたことといい、妙に腫れ物に触るような今の態度といい、やはり兄は何もかも聞いているのだろう。

 見透かされているからって、こちらから話す気は毛頭ないけれど。

 兄がそうするように、僕も兄の表情をうかがうことはない。刺々しさを秘めた声だけが和室に満ちた。
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