やわらかな檻
「こんなところで現を抜かしていて良いんですか。今日はパーティーに出かけると聞いていましたが」

「親は行ったようだよ」


 時計の針は既に午後八時を示している。他人事の口振りで言うからには、毎年出かけているこの日には珍しくも、兄は屋敷に留まるのだろう。

 ふぅん、と浅く頷き、特に話題がないのですぐに会話が途絶えた。

 気を遣って僕から話しかけてあげる義理もないが、いったい離れまで何をしに来たのか、と小言を言いたい気持ちはある。

 だいたい、この異様な静けさは居心地が悪い。

 彼女と一緒にいた頃とは大違いで、水底にたゆたうような安心感も何もなく、二人で黙っていると一人で読書している時より強く静寂を感じた。

 数分程度の時間さえ流れるのがやたら遅い。

 可能な限り距離を置いて座った先、それまで衣擦れの音一つさせなかった兄が斜め下から僕の表情を覗くように見て、口を開いたのはこれまた唐突だった。


「弟君にクリスマスプレゼントをあげようか」

何を言っているんだこの人は。

「……は」


 クリスマスプレゼント。確かにそう聞こえた。

 この屋敷にほとんど娯楽がないとはいえ、その言葉自体を全く知らないというわけではないけれど――…ただ目を見張って見返すしか出来ないのに対し、傾けた体勢を戻した兄は満足げな笑みを浮かべていた。


「今日明日は通いの人達は皆休み、住み込みの侍女も働いているのはごく一部。万が一誰かに会っても口止めしてあげる。守衛に話は通した。あと何が必要だっけ……そうだ、タクシーを使える程度のお金も用意出来るだろう」

「…それが、何か」
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