やわらかな檻
「当主が帰ってくる明日の朝まで、小夜ちゃんと仲直りするために行くプチ家出なんてどうだい?」
目を輝かせて提案してくるが、思わず鼻で笑ってしまった。
「無理ですよ」
「なぜ?」
「仲直りなんて考えていませんし、現実問題、彼女の住所を知らないので。先触れの電話も私自身が取ったことはないんです。だから電話番号も知らない」
何もかも知らないこと尽くめの上に、そもそもあの出来事は、ケンカや仲直りなんていう子どもらしい言葉で括ってしまえるのだろうか。
兄の言うケンカは恐らく仲直りが前提にあるだろうけれど、それに当て嵌まるのだろうか。
あの時の感情は「怒る」なんて一言では表せない。
生きる道が違うことの悟りや、失意や絶望や色々なものが混じり合って、今後仲直りが出来るとも思えないのに。
そんな風に黙り込んで物思いに耽っていたから、どうしても家出させたいらしい兄が横でぶつぶつ言っているのは右から左に素通りしていった。
「小夜ちゃんの住所を知っていそうなのは……ああ、君付きの侍女も休みだっけ。運転手もいなければ脅せないね。そうか、こっち方面で駄目だったか」
次第に声が潜められていき、終いには「プランBに変更だな」と呟いていたのも聞き逃した。
思考を渦巻かせるのから現実へ戻ってきたのは、ソファから振動が伝わってきたのが切っ掛けだった。兄が立ち上がったのだ。
僕の正面に立ち向き合うと、文字通り見下して自信に満ちた様子で微笑む。
「小夜ちゃんからの差し入れを冷蔵庫に入れておいたんだ。取ってきてあげよう」
目を輝かせて提案してくるが、思わず鼻で笑ってしまった。
「無理ですよ」
「なぜ?」
「仲直りなんて考えていませんし、現実問題、彼女の住所を知らないので。先触れの電話も私自身が取ったことはないんです。だから電話番号も知らない」
何もかも知らないこと尽くめの上に、そもそもあの出来事は、ケンカや仲直りなんていう子どもらしい言葉で括ってしまえるのだろうか。
兄の言うケンカは恐らく仲直りが前提にあるだろうけれど、それに当て嵌まるのだろうか。
あの時の感情は「怒る」なんて一言では表せない。
生きる道が違うことの悟りや、失意や絶望や色々なものが混じり合って、今後仲直りが出来るとも思えないのに。
そんな風に黙り込んで物思いに耽っていたから、どうしても家出させたいらしい兄が横でぶつぶつ言っているのは右から左に素通りしていった。
「小夜ちゃんの住所を知っていそうなのは……ああ、君付きの侍女も休みだっけ。運転手もいなければ脅せないね。そうか、こっち方面で駄目だったか」
次第に声が潜められていき、終いには「プランBに変更だな」と呟いていたのも聞き逃した。
思考を渦巻かせるのから現実へ戻ってきたのは、ソファから振動が伝わってきたのが切っ掛けだった。兄が立ち上がったのだ。
僕の正面に立ち向き合うと、文字通り見下して自信に満ちた様子で微笑む。
「小夜ちゃんからの差し入れを冷蔵庫に入れておいたんだ。取ってきてあげよう」